酔っぱライタードットコム - 酔いどれエッセイ/電気ブラン

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酒にはそれぞれ思い出があり、ストーリーがある。とはいっても、酔っぱライター的には、小説になるような美しいお話ばかりではない。酔っぱらって怪我をしたり、記憶をなくしたり、死にかけたり。かと思うと、飲む相手を間違えてからまれたり、たかられたり。そんな抱腹絶倒・悲喜こもごものショートエッセイ集。

電気ブラン

 卒業後、地方に飛ばされた学生時代の先輩から、久しぶりに電話が来た。「じつは今度の週末、東京に帰るから会わない?」というので、私たちは「神谷バー」で会うことにした。
 じつは私は浅草に住んでいる。神谷バーは、最近イキなデートスポットと宣伝されているが、その実態はムードもへったくれもなく、昼間から地元のオヤジが飲んだくれている居酒屋だ。なんといまどき食券制。しかも追い込みの長テーブル。カップルで行っても、相席になった「きさくな」下町のオヤジに、話しかけられまくって困るのがオチだ。ま、彼とは友達同士だったので、わざとこのような気の置けない店にしたのである。
 しかし、ここの名物「電気ブラン」はあなどれない。ブランデーベースの甘口カクテルなので、そうとう酒の強い人でも悪酔いする。女を口説くにはもってこいの酒なのだ。彼は、勤務地で知り合った女性と2カ月後に結婚する予定だと言いつつ、速いピッチで電気ブランをおかわりした。そのあげく正気を失いガラリと豹変し、こともあろうに「結婚なんか決めるんじゃなかった。オレがほんとに好きなのはおまえだーっ」と泣き出したのだ。この時はなだめすかしたが、翌日から、「結婚してくれ」という電話がひんぱんに入るようになった。ゲッ、まだ正気に戻ってないのかよ? その気のない私が断り続けると、彼は2カ月後に予定通り結婚し、電話もぱたりとやんだ。
 あれが噂のマリッジブルーというやつだったのか? ともかく、電気ブランを飲ませる相手を間違えたことは確かであった。


 
 
 
 
 
 
 
 

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