酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/銀嶺月山

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出羽三山の主峰月山は、4月にスキー場がオープンするほど、雪が多いことで知られている。その麓には、「銀嶺月山」というお酒を造っている月山酒造がある。専務の鈴木潤一さんとは、山形の酒の会で一緒にお酒を飲んだこともあり、蔵見学はすんなり決まった。

月山酒造のある寒河江(さがえ)は、山形からローカル線の左沢線(あてらざわせん)に乗り、26分ほど。寒河江駅近くには、温泉が点在しており、寒河江温泉と呼ばれている。私が泊まったのは「一龍」という、源泉掛け流しの温泉宿であった。夜になって、鈴木専務が現れたので、宿の居酒屋で銀嶺月山を飲みながら明日の取材の打ち合わせをした。その酒は、旨味がありながらキレもあり、食事によく合うというなかなかの良酒であった。

個性の違う豊龍蔵と一声蔵


翌日は朝から月山酒造へ。月山酒造は、製造蔵は併設していない。製造蔵は、少し離れた一声蔵と豊龍蔵に分かれている。

一声蔵は、明治の末頃創業し、現在は2800石を10人の地元農家の蔵人さんで造っている。一方、豊龍蔵は、江戸時代の元禄年間頃に創業し、当時は朝日町の銀山に酒を供給していたが、現在は200石を5人の果樹農家の蔵人さんが造っている。そして、2つの蔵を統括しているのが、杜氏で研究開発部長の布宮雅昭さんなのである。

布宮さんは、以前「大関」の研究所にいたのだが、昭和55年に山形へUターンし、月山酒造に入った。豊龍蔵と一声蔵には、両方お互いにまねのできない味があるので、お互いのいいところを出してあげようと、日々努力している。「一声蔵が軟水で柔らかい味ならば、豊龍蔵は味がどっしりしている。商品の特徴を考えて、造り分けをしているので、銀製月山の酒は、ほかの蔵よりバラエティが出ていると思います」と言う。

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たしかにこの2つの蔵では、水の系統が違うので、できる酒も自ずと違う。一声蔵は、月山の伏流水が400年かかって湧き出てきた水で、酒はスッキリ系になる。豊龍蔵は、ややコクのある酒になるという。布宮さんは、この特質を生かして、酒造りをしているのだ。

そして、東北の鑑評会では毎年、全国の鑑評会でも平成になってから9回も金賞を取っている。しかし、月山酒造という名前では出品しておらず、2つの蔵の名前なので、一般には知られていないのが少し残念だ。「パワフルな香りの酵母は使わずに、市販品で売れるような酒質で金賞を狙っています」とのことであった。

ではそのお酒を飲んでみよう。「生貯蔵酒本醸造」はアルコール度を少し落としてあり(13〜14%)、軽やかで飲みやすい。「吟醸生酒」もやや低いアルコール度なので、なめらか。軽い吟醸香もいい。「純米吟醸 月山の雪」は、コクがあって、甘みもあって、酸もあるという、通好みの酒。旨い! 「大吟醸 限定」は香りがおとなしいので食中酒にもなり、口当たりがいいのでスイスイ飲めるし、「純米大吟醸 山田錦」は、骨太で飲みごたえがあった。全体的に、旨味はあるが、雑味はなくキレの良い酒だった。こういう酒を造るのは、かなりの技術力が必要だと思われる。

その後、まず豊龍蔵を見学しに行った。どっしりとした蔵は、江戸後期から明治時代の建物。もう造りが終わりの時期で、もろみだけしかなかったが、小さな仕込み蔵はきれいに整頓され、整然とタンクが並んでいた。見たところ、機械らしきものは放冷機くらいしかなく、完全手造りの様子がうかがえた。

月山酒造の課題は山形の課題


一声蔵へ行く前に、鈴木専務が「蕎麦を食べませんか?」と言うので、臥龍亭という蕎麦屋に入った。寒河江は蕎麦の町でもあり、観光協会発行の蕎麦屋マップには、21軒の蕎麦屋がのっている。臥龍亭は寒河江川に面していて、ロケーション抜群だ。ここで寒河江名物肉そばをいただく。汁蕎麦だが、汁が冷たくて、上に鶏肉が乗っている。旨い! これに銀嶺月山のスッキリとしたお燗酒がまたよく合う。そばがきを揚げた、あげそばもちというものも食す。中はモチッと、外はカリッとしていて珍味である。

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一声蔵は、平成8年に建て替えた新しい蔵だった。ちょうど大吟醸の袋吊りをしていたので、布宮さんが、斗瓶にとったものを飲ませてくれた。雄町は甘みがあり、出羽の里はスッキリ系、山田錦の35%は文句なく旨い。

こちらでは、全量自家精米をしている。4台の精米機があり、うち2台は全自動だ。米のほとんどが地元産。人件費や電気代を考えると、白米を買った方が安いのだが、「白米だと、思った米が来ないのです」という。

甑はステンレスで、蒸気をボイラーで当てる方式。麹はすべてKOSという機械で造る。ただし、吟醸酒は夜も人がついて温度管理をしている。この機械を入れて10年になるが、最近ようやく使いこなせるようになってきたということであった。

酒母は、以前は速醸もとだったが、今は大吟醸も高温糖化もとである。そのほうが、味にキレが出るのだとか。酵母は自家培養している。月山酒造独自の酵母を使って、アルコール度数10%の純米酒なども造っているそうだ。仕込みは大吟醸で750キロ、そのほかは1.5〜2トンなので、けして大仕込みはしていない。

最後に、布宮さんからお話を伺った。豊龍蔵は昔ながらの手造りで、一声蔵は近代的なので、お互い勉強になるのだという。「例えば、一声蔵の若い人が豊龍蔵へ行って、麹蓋を覚えて帰ってくるということもある。はじめに手造りを経験してから機械を扱うと、よりよく機械を使いこなせるようになるのです」

布宮さんによると、機械もなかなか奥深いものらしい。「酒造りは機械より手造りのほうがいい、といった単純なものではありません。機械もまだまだ能力があるし、機械のほうが、味にキレがあったりする。手造りではとうてい無理なことを、追究できる部分もある。要は使いこなすことが大切なのです」

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では、布宮さんが目指す酒とはどんな酒だろう?「日本酒の魅力は『旨さ』だと思うのです。それも、しつこい『旨さ』より、スッキリした『旨さ』を出したいと思っています。そのポイントのひとつは麹ですね。できた麹を見るだけでは判断できないので、仕込んでみて、その麹がどういう経過でどういう造り方をしたか、常に記憶し、フィードバックするようにしています」

今後は、山形県の酒全体がレベルアップして、「山形の酒はいいね」と言われるようにしたい、と夢を語る布宮さん。蔵人の勉強の場である研醸会の3代目会長として、山形ブランドを確立する仕事にも精を出す。

「やはり地元の米を使いたいですね。出羽燦々は10年たって安定してきていますが、出羽の里は新しい米なので、新しい味が出るのではと期待しています。うちの酒造りが山形の酒に貢献できればいいですね。月山酒造の課題は山形の課題でもあります」

月山酒造には、特徴ある2つの蔵と、それらを統合して銘酒を生み出す、隠れた名杜氏がいたのであった。
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月山酒造株式会社
創業昭和47年 年間製造量3000石
山形県寒河江市大字谷沢769-1
TEL 0237-87-1114
http://www.gassan-sake.co.jp





1月山酒造のお酒
2利き酒をさせてもらった
3豊龍蔵の仕込み室
4タンク洗いも大事な仕事だ
5人の手で櫂入れをする
6寒河江名物肉そば。旨い!
7一声蔵
8袋吊りで大吟醸を搾る
9もろみをすくってくれる布宮さん
10もろみを飲ませてもらった
11布宮さんとともに


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