酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/男山

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「男山」を訪ねたのは、暖冬で雪がない年だったが、それでも旭川の町はすっぽりと雪に埋まっていた。夕方到着した私に、山崎與四良(よしろう)社長をはじめ広報担当の皆さんが、「大舟」という居酒屋で宴席を用意してくれていた。

北海道とくれば、海の幸だ。テーブルには、お刺身の盛り合わせがドーンと登場。ホタテに甘エビ、ウニ、イクラ……すべて旨い。北海道では必ず食べるコマイもリクエスト。小さいものを一匹丸ごと干物にしたものが旨い。ビールや日本酒には絶好のつまみだ。このとき飲んだのは、「雪しばれ」という「男山」の純米酒。スッキリきれいでスイスイと飲みやすい。

ここで鮭のルイベを頼もうとしたら、「今日はケイジしかないよ!」という大将の声。ケイジとは鮭児のこと。高いものでは1匹10万円もする、数万匹に1匹の最高級の鮭である。白子も卵巣もない若い鮭なのだが、全身トロ状態といっていいほど脂がのっているという。そんな鮭児「しか」ないなんて、この店じつはすごい店なんじゃないか?

噂には聞いたことがあるが、一度も食べたことのない鮭児。出てきたルイベは、普通の鮭と変わらない。だが口に入れると、うお〜! 甘くまったりととろける!ウマい!激ウマだ!!こいつにまた、「男山」のキリッとした酒が、しみじみとしみわたるのである。

2次会では、別の居酒屋で再び酒をガンガン飲む。ここでは「男山」の本醸造だった。飲みやすくてまたしてもスイスイ飲めてしまう。すっかり酔っぱらい、帰ろうとすると、「ラーメンを食べに行きましょう」と言う。そうか。北海道名物にはラーメンもあった。麺好きの私にとって、ラーメンは別腹。これは食べなくては、と、旭川を本店と

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する「山頭火」へ。こってりしながらくどくないスープが絶品。ううむ、さすが全国区になったラーメンだけのことはある。海の幸からラーメンまで、北海道の産物と酒を、たっぷり堪能した夜であった。

朝搾った酒を毎日手詰め!その味は…


翌朝、飲み過ぎでまだ酒が残っていたが、「男山」の蔵見学へ出かけた。蔵は昭和43年に建て替えたもので、資料館と試飲販売所が完備しており、お客さんを受け入れる体制はバッチリ。昔の酒造りの道具を展示した資料館からは、ガラス越しに仕込み作業が見えるようになっている。「いつも見られているのでしっかりやりますし、清潔にもしますので、ガラス張りはいいことだと思います」という製造課長の高濱美春さんの案内で、ガラスの向こう側へと入れてもらった。

「男山」では1万石を50人で造っているというから、ほとんど手造りなのだろう。お米は道外のものが多いが、ほぼ全量自家精米だという。蒸し米は、連続蒸米機で造っており、私が行ったときは、吟醸用の40%の山田錦が蒸されているところだった。

麹室は広く、麹蓋と床(とこ)の機械が目についた。大吟醸のみ、麹蓋で造るという。仕込み室では、ちょうど木桶の仕込みをしていた。木桶は昔使っていた100年前のものを生かして、復元したものである。吟醸用の750キロのサーマルタンクもあり、最大のタンクは20キロだ。だが、自動櫂入れ機はついてないので、全部人の手で櫂入れするという。

ここで「復古酒」のもろみを飲ませてもらった。おお、甘酒みたいだ。「復古酒」は米や麹が多いので、製品になっても、甘酸っぱい味なのだとか。高濱さんは、「もろみはいじめるときにいじめないとダメ。温度を下げるときはしっかり下げるということです」という。

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蔵の片隅へ行くと、女性たちが総出で瓶詰めしている現場があった。これは?「今朝搾った酒を、『今朝ノ酒』として1日100本限定で詰めているのです。全部手詰めです」今日の中身は19度の純米原酒だという。それはぜひ飲んでみたい!ということで、槽場へ行き、飲ませてもらう。おお、これは、シュワッとガスがはいっていて、フレッシュでウマい!

その後、試飲販売所へ行き、いろいろと試飲させてもらった。ここでは男山のほとんどの酒が無料で利き酒できるという、夢のような場所なのだ。まずカメで仕込んだ「平安のカメ酒」。これは12%と低アルコールで甘酒のように甘い。「にごり酒」は、少しガスが入っていて辛口だ。

「純米大吟醸」は米の旨味が残っていながら、辛口でキリッとしている。資料館限定の「純米原酒」は、酸があり骨太。また、実際に雪の中で熟成させた「雪がこい 特別純米」は、飲みやすくスッキリとなめらかである。マイナス5度で5年間熟成させた「静熟 吟醸原酒」は口当たり良くスムーズでまろやか。旨い! アルコール度11%の「春の誘ない」はワイン風で爽やかだ。全体的に、スッキリとして飲みやすくキレのある酒質はさすが「男山」であった。

1000石は輸出。海外での評価も高い


最後に山崎社長にお話を伺った。無料の資料館や試飲販売所があることからもわかるとおり、「男山」はお客様ウエルカムの蔵である。蔵見学に来る観光客は、毎年18万人だというからすごい。「バスでも個人でも、とにかく入ってきたら『遠くからありがとうございます!』と声をかけるようにしています。販売所の人間は、商品説明だけではなく、資料館の案内もする。雪が降ればみんなで雪だるまをつくって、お客様をお迎えしています」あの玄関前にあった巨大な雪だるまには、社員全員の歓迎の意味がこめられていたのだ。

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「なにしろ蔵は最大の宣伝の場所ですからね。でも、お酒以外のものはあまり売らないようにしています。また、絶対に酒を買ってくれとは言わないようにと言っています。あくまでも宣伝の場なので、売りにかかるなということです」

1割を海外に輸出している「男山」には、海外からのお客様も多い。さきほども、試飲販売所に来ていたのは台湾からの観光客だった。1割といっても、1万石の1割なので、小さい酒蔵一つ分くらいの量があるし、OTOKOYAMAは、アメリカで最も有名な日本酒だと聞いたこともある。

「たしかに海外には力を入れています。昭和43年当初は道外にはまったく行っていなかった。それが今は3分の1が海外を含む道外です。海外、東京、地元とブーメラン的に男山が根付いてくれればいいと思っています」

それでもやはり地酒は地酒。地元旭川をしっかり持つことが大切だと、山崎社長は言う。毎年冬に「酒蔵開放」をしているのもそのためだ。これが1日で1万2000人もの人が集まる大イベントで、すっかり地元に定着し、もう30回も続いている。社員総出で準備から片付けまでしなくてはならないし、労力を考えると大変なのだが、続けることに意義があるという。「昔、お父さんに連れてきてもらったという人が、自分の子供を連れて来てくれる。そんなことが励みになって、また来年もやらなくてはと思うのです」

「男山」はまた、上川盆地に突出した標高220メートルの丘陵地帯に、「男山自然公園」という施設ももっている。ここには道内最大級のカタクリ群落があることで知られており、4月中旬から5月中旬の期間中は無料で散策することができる。「入場料はいただいていません。来た人に、男山は、北海道は楽しかったと思っていただければそれでいいのです」

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取材が終わると、「あさひかわラーメン村」へと案内された。旭川の8軒のラーメン店が集まっており、年間64万人が訪れる観光スポットだ。施設内を見て回り、「いってつ庵」という店に入った。魚だしととんこつをブレンドしたスープがウマー。2日かけて作ったというチャーシューもトロトロで旨かった。

まだ帰りのフライトまで時間があったので、企画室の方の案内で、話題の「旭山動物園」へ行った。テレビで見た通り、動物たちを間近で見ることができる展示方法はさすがである。とくに、雪の中をヨチヨチとペンギンたちが大行進する姿は、かわいくて感動した。

しかし、道は凍っていて、足元はツルツル滑る。雪に慣れない私は、そろそろと歩かなければならなかった。地元の人たちはあの道を全然滑らないで歩いていたが、靴が違うのだろうか? それとも歩き方にコツがあるのか? 帰りに知ったのだが、売店で、靴に装着するスパイクのようなものを売っていたので、冬に行く方は、ぜひそれを購入してから園内を歩いてほしい。

夜の宴会から翌日の蔵見学、そしてその後の動物園まで、男山のみなさんには、本当にお世話になった。山崎社長の「来た人に、男山は、北海道は楽しかったと思ってもらいたい」という思いが、社員全員に伝わっている証だろう。「お客様を歓迎する」という「男山」の素晴らしい心意気に触れた旅であった。

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男山株式会社
創業1661年 年間製造量1万石
北海道旭川市永山2条7丁目
TEL 0166-48-1931
http://www.otokoyama.com




1お座敷居酒屋 大舟 北海道旭川市6丁目右6号 TEL0166-22-2295
2鮭児のルイベ
3製麹機
4麹室には麹蓋もある
5連続蒸米機
6仕込み室
7「今朝ノ酒」を詰める
8「今朝ノ酒」を飲ませてもらった
9木桶の仕込み
10仕込み中のもろみ
11「男山」のお酒
12試飲販売所で試飲をする
13精米機
14瓶詰めライン
15山崎社長とともに
16旭山動物園のペンギン

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