酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/千代むすび

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「千代むすび」というお酒は10年前から知っていたが、かなり気になりだしたのは、3年前境港に行ってからである。

境港といえば、漫画家・水木しげる先生の生誕地。通称「鬼太郎ロード」と呼ばれる目抜き通りには、妖怪たちの銅像が並び、妖怪グッズを売る土産物屋が軒を連ねていた。そしてその中心地に、「千代むすび」のショップとカフェを発見したのだ。

中を覗くと観光客が群がり、鬼太郎ボトルの焼酎や妖怪ラベルの日本酒が飛ぶように売れていた。「千代むすびって……、地元では鬼太郎バブルですごいことになっているんじゃないか?」そう思っていたら、あの「ゲゲゲ」ブームの到来である。あのときは「千代むすびはきっとすごい熱気だろう」と、気になって気になってしかたがなかったのだが、取材に行くチャンスはなかった。

だが昨年夏、米子で酒造組合中国支部が主催したセミナーがあり、「千代むすび」の岡空社長と10年ぶりに再会。専務でもある奥様にも初めてお会いした。そして幸運にも蔵へ招かれたのだ。

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そのとき境港の新鮮なお魚をつまみに、じっくりと「千代むすび」を飲んでみて、しみじみ旨いと思った。とくに「強力(ごうりき)」という昔のお米を使った純米吟醸が激ウマだった。酸があり、骨太でしっかりとしたパワーのある酒。でもけして重たくて飲みにくい酒ではなく、キレイでスッキリしている。「旨い!」というより「参りました!」である。「これはぜひとも冬に来て、造りを見なくてはいけない」と思った私は、再三のラブコールを送った末、ようやく今回の取材が実現したのである。

「酒づくり」は「人づくり」

冬の境港は雪が降っていてものすごく寒かった。そんな中でも観光バスが出入りし、鬼太郎ロードを歩く観光客がいる。水木しげる、恐るべし、である。

到着した夜は、「千代むすび」の社長と奥様、社員の皆さんで、歓迎会を開いてくれた。場所は蔵の中にあるカフェである。さすが漁港だけあって、つまみはオール魚!しめ鯖、ナマコ、白バイ貝、白イカ、鯛……もちろんピチピチの鮮度である。

そしてメインは大きな松葉ガニ!生きたまま水から煮ているので、身はあくまでも甘く、カニ味噌も全然クセがなくまろやか。このカニ味噌と、生もとのお燗を合わせると、口の中が極楽浄土という感じである。その後もカニすきにカニ雑炊とカニづくし。お酒は蔵人さんがかわるがわる蔵から持ってきてくれて、どんなに飲んでもなくならないし(当たり前だ)、東京ではあり得ない贅沢な宴会に大感激して、撃沈したのであった。

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この宴会で思ったのは、営業スタッフが充実しているということである。この規模の酒蔵だと、普通は営業担当者が1人いればいいほう。営業担当がいなくて社長自ら営業しているところも少なくない。それが「千代むすび」は4人も営業マンがいるのだ。造りのほうには人もお金もかけるが、売るほうがおろそかということでは、やはり売れる酒はつくれないだろう。ここに岡空社長の戦略性が伺える。

また、翌日朝礼に参加させていただいたのだが、みんなで昨日を振り返り、今日の目標を発表し合うという、シンプルだがとてもいい朝礼で、私まで清々しい気持ちになった。「千代むすび」は人を大事にして組織作りをしっかりしているという印象を持った。

蔵の中に入ってみると、杜氏の坪井さんは42歳だし、6人いる蔵人さんも20〜30代とひじょうに若い。その彼らが生き生きと楽しそうに仕事をしていた。お互い声も掛け合わず、黙々と作業するというよくある酒蔵の風景ではなく、皆で冗談を言ったり笑ったりしているのを見て、ある意味ホッとするところがあった。

「造りのポイントは?」という質問をしたとき、普通なら「麹です」とか「原料処理ですね」などという答えが返ってくるが、坪井杜氏は即座に「人ですね」と答えた。「人の和と蔵人のコンディションを良く保つことが一番大切」だというのだ。「和醸良酒」という言葉は知っていても、若い杜氏の口から、なかなかすぐに出てくる言葉ではない。

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「千代むすび」の日本酒や焼酎をいろいろ利き酒させてもらったところ、やはり「強力」が頭一つ抜きんでている感じで、次に素晴らしかったのが、精米歩合40%の「純米大吟醸」だった。大吟醸らしい味があって旨味があり、香りも強すぎず弱すぎず絶妙。ほとんどの原料を鳥取県産の米に限定し、全量自家精米するという米へのこだわりが、この味を支えているのである。

一方、焼酎は日本酒の黄麹を使い、原料はすべて鳥取県産だとのこと。中でも蕎麦焼酎「よもっちぇ」がひときわ光っていた。蕎麦焼酎は、おいしく造るのがひじょうに難しく、当たり外れが大きいが、「よもっちぇ」は大当たり!地元でとれた蕎麦が84%も入っているので、そばがきのような甘みと旨味があり、蕎麦好きにはこたえられないだろう。これを蕎麦湯で割って、飲みながら蕎麦をすすりたい。

「千代むすび」は2009年、韓国に現地法人を立ち上げた。境港と韓国は地理的に近く、定期航路もあることから進出を決めたという。軌道に乗せるまでは苦労したが、昨年から黒字に転じたというから、これからが勝負である。

「鬼太郎ロードによってずいぶんメジャーになったが、今後は鬼太郎から脱却して、本当の意味でのブランド力をつけなければならない」と岡空社長は言う。境港から、県外、そして海外へ。若さと勢いのある「千代むすび」の今後から目が離せない。


外観-.gif千代むすび酒造株式会社
創業1887年 年間製造量(日本酒・焼酎・梅酒)1420石
鳥取県境港市大正町131番地
TEL0859-42-3191
http://www.chiyomusubi.co.jp/

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