酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/開華

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栃木県佐野市といえば、佐野厄除け大師と佐野ラーメンで有名な町。ここに、栃木県で最古の日本酒蔵がある。「開華」を造る第一酒造は、1673年創業で、現在の島田嘉紀専務で12代目になる。

取材前日、島田専務と市内の居酒屋へ。さすが地元、開華の吟醸生原酒があった。「うちは窒素充填の生樽サーバーを使っているので、生でも劣化しないんですよ」と島田専務。飲んでみると、やわらかく甘みがあり口当たりがよい。う〜ん、これは飲みやすい!

主力商品の特別純米酒「みがき」もあった。島田専務の名刺にも「みがき」の写真が載っているほど、売り上げナンバーワンの酒である。冷やで飲んでみると、ガツンとくるが、重すぎないので飲み飽きしない。お燗にすると、さらにまろやかになり、燗上がりする酒だ。旨い。

ひとしきり食べ飲みし、居酒屋を出て、行くところは当然ラーメン屋である。佐野ラーメンは手打ち麺が基本。あっさりとした醤油味のスープに、柔らかめの太麺がよくからむ。

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「佐野のラーメン屋は、午前3時頃までやっていて、飲み屋として利用されている店も多いですよ」と島田専務。壁のメニューを見ると、なるほど、ラーメン以外のサイドメニューが充実している。「でも飲むのはビールなんですよね。ラーメンや餃子に日本酒は合わないみたいで・・・」「それではラーメンに合う日本酒を造ればよいのでは?」「いや〜、難しいですねー」島田専務はそう言って苦笑いするのであった。

すべての麹を手造りで


「開華」は全量特定名称酒で、1000石を7人で造っている。7人のうち4人もが酒造技能士の一級を持っているというから、優秀な人材がそろっているのだろう。

朝は7人総出で、まず出麹の作業から始まった。麹室は3つ。大吟醸用には床と棚の2つの室を使う。枯らし場もついた立派な麹室は、2年前、古い煙突が詰まって火事になったあとに建て替えたものだ。すべて箱麹で、麹蓋は使わない。このほうが安定感があるという。機械らしきものは切り返し機のみ。本醸造にいたるまで、全量手造りの麹である。

米が蒸し上がり、いよいよ麹の引き込みである。大吟醸など一部は手で引き込むが、普通はエアシューターを使う。エアシューターは、空気が入らないサイクロン方式。室には湿気と空気が入らない特殊な構造の引き込み口があり、そこから最良の状態の麹米が引き込まれるのだ。種切りはすべて麹室で行う。

仕込み室には1500キロの開放タンクが並ぶ。大吟醸だけは冷房のはいる小部屋で仕込み、タンクは700キロだ。純米以上の瓶詰めにはパストライザーを使用し、本醸造については加熱後、急冷している。その後大吟醸は冷蔵で瓶貯蔵し、そのほかのものは、タンクごと冷蔵貯蔵している。

精米所も見せてもらった。全量自家精米をしており、平均精米歩合は57%だ。昔は水車精米をしていたので、精米所の下には川が流れていたという。使っている米は自社水田の雄町、県内の美山錦、五百万石、兵庫の山田錦、長野の美山錦などである。

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敷地内の一角には、酒ギャラリー「酒蔵楽」という、試飲販売所があった。さっそくいろいろと試飲させてもらう。桃色酵母を使った「ひなまつり」は、低アルコール酒だが甘すぎず、サッパリしていてうまい。輸出用の酒として、アメリカで売れているという「風の一輪 純米吟醸」は、アルコール度を少し落とした14%。軽い味わいで飲みやすい。きれいな酒だ。「大吟醸」は華やかな香りで文句なく旨い。ちなみに全国の金賞は、20年間で11回受賞しているということだ。

特別純米の「活性にごり酒」は、全然甘くないスッキリとしたにごり酒だ。本醸造の「辛口旨酒」は、辛口といっても薄辛い酒ではなく、旨みと甘みが感じられ、なかなかの出来。私が一番気に入ったのは、純米の「あらばしり」。ほのかに吟醸香がして、荒々しさはなく、丸みのある良酒であった。

早くから純米や吟醸に取り組む

島田専務は大手ビールメーカーに3年ほど勤務したあと、平成4年に蔵に戻ってきた。「開華」には長年新潟から来てくれている力石杜氏がいるが、今年限りで引退し、10年間力石杜氏のもとで副杜氏をしてきた二宮杜氏にバトンタッチした。ちなみに力石杜氏は飲めない杜氏で、二宮杜氏は飲める杜氏なので、「開華」の味も微妙に変わってくるのではなかろうか。

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今年新しくリリースした新商品に、「開華 純米吟醸黒瓶」がある。これはパストライザーを通して1℃の冷蔵庫で貯蔵した酒だという。「開華」というと、「風の一輪」に代表される軽く飲みやすい酒というイメージがあるが、そこから原酒に近い度数でしっかりした感じの酒に少しずつシフトするつもりのようだ。

それというのも、季節商品で無濾過生原酒の「立春朝搾り」と「大晦日しぼり」にはファンが多いのだが、これの好きな人が通常買う定番商品がなかったのだ。「季節商品で『開華』を初めて知ったお客さんが、継続してうちの酒で楽しんでいただけるような商品が欲しかったのです」と島田専務は言う。

力石杜氏が蔵に来た昭和40年代、佐野は交通の便が良く東京にも近いことから、東京からどんどん酒が入ってきたという。「栃木県は、宇都宮から北は栃木放送で下野新聞。でも、南は東京と同じで言葉も標準語なんです」そこで、「普通のものを造っていたらダメだ」と純米、吟醸に力を入れることにした。「みがき」ができたのはその頃のことだ。それが評価され、東京にも進出していった。今は3割が県外に出ている。

さらに平成9年の造りから、全量特定名称酒にした。当時3割〜4割を占めていた地元向けの旧二級酒を本醸造に変えたのだ。しかし、値段はほとんど変えず、一升1600円から1660円にしただけだった(当時)。「こっちの勝手で造りを変えたので、地元のために価格だけは抑えようと努力しました」今も本醸造の出荷は3割程度で安定しているという。

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「93年から海外輸出も始めましたが、7割は佐野市を中心とした栃木県内でいいと思っています。うちは地元でしっかりと飲まれる酒を目指していますので」と島田専務は言う。それには今後も手造りを守っていく方針だ。「米も気温も毎年違うので、その時々に応じて、人間がコントロールしてあげないといけない。それには見て、触れて、感じることが基本。機械を入れると人間が判断しなくなるのが怖いのです」

しかし、機械に任せなければならないところは、設備投資を惜しまない。精米所も、旧式の精米機から全自動の最新式精米機に変えたし、蔵人の労力を軽減するために、蒸し米を掘るのではなく、クレーンでつり上げる方式に変えた。さらに麹室を新しくし、低温倉庫を作り、パストライザーを入れ……と、島田専務が蔵に戻ってから、ずっと改革し続けている。

「品質は上がるのが当たり前。酒が良くなくては話にならないし、勝負になりません」とキッパリ。

この冬は杜氏も変わり、蔵人の平均年齢も40代と若返る。新体制ではたしてどんな酒ができるのか。「開華」の今後に期待したい。

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第一酒造株式会社
創業延宝元年 生産量1000石
栃木県佐野市田島町488
0283-22-0001
http://www.sakekaika.co.jp




1佐野ラーメン
2佐野名物いもフライ。甘酸っぱいソースが決め手
3出麹
4箱に麹を盛る
5湯気を上げる甑
6蒸し米はクレーンでつり上げて取り出す
7麹の引き込み。特殊なエアシューターを使う
8麹の種切り
9仕込み室
10櫂入れは人の手で
11ギャラリー酒蔵楽
12「開華」のお酒
13試飲中
14島田専務とともに

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