酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/長門峡

タイトル.jpg

新山口からバスに乗って1時間半。萩に着くと、「長門峡」の蔵元、岡崎考浩専務が迎えに来てくれた。そして、今夜宿泊する萩ロイヤルインテリジェントホテルに案内されたのだが、岡崎専務は「ここの中にある『だいにんぐまめた』という店にうちのお酒がそろっているので、ぜひ行ってください」と言って、帰ってしまった。なんだか忙しそうである。

一人残された私は、蔵元おすすめのお店だからと、さっそく「まめた」へ。女将らしき女性に尋ねると、「長門峡なら、斗瓶取りの大吟醸『生楽』がおすすめですよ」というので、それをたのむことに。出てきた酒は、さすが最高峰の大吟醸。華やかな香りがあり、フルーティーだ。つまみには、長州鶏のたたきをいただく。臭みはなく、甘みがあっておいしい鶏だ。こりゃウマい!

「おすすめのつまみは?」と聞くと、「ぜひ、オリジナルの呉豆腐を食べてください」と言う。呉豆腐は、ごま豆腐のような味わいで、プルプルとした食感。クリーミーで濃厚なお豆腐の味が凝縮している。これに合わせるのは、長門峡のにごり酒だ。旨味がありながら、スッキリ辛口で旨い。

1*.jpg2*.jpg3*.jpg4*.jpg

女将は波多野千恵子さんといって、かなりのお酒好き。ほかにお客さんがいなくなったら、私の目の前に座りこんで、お酒話で盛り上がる。そのうち、仕事を終えた岡崎専務がひょっこりやってきて合流。亀の手という貝が入った貝汁を飲みつつ、長門峡の上撰を一杯。お〜〜、こりゃイケる! ちょっと甘みがあって、ホッとする酒だ。大吟醸が旨いのは当然だが、普通酒もまたよし。すっかり楽しくなった私は、思わず長居してしまったのであった。

日本酒リキュールの元祖

長門峡の蔵は、萩市内から車で10分程の、阿武川流域にある。長門峡北入口というバス停の真ん前だ。長門峡という酒名は、蔵からさらに車で40分ほど上流にある渓谷の名前でもある。紅葉の頃には観光客でにぎわう、たいへん風光明媚な場所らしい。

現在600石を、杜氏さんも含め6人で造っており、岡崎専務も麹と酒母を担当している。聞けば、もう酒造り歴10年になるのだが、最終的に自分が杜氏になるつもりはなく、あくまでも酒造りの時期だけ、杜氏さんの下で手伝うつもりのようである。

水は阿武川の伏流水、米は全量県産米だ。甑は大小2つあり、大吟醸は小さい甑を使う。麹は、吟醸以上は蓋で、あとは箱で造る。泡あり酵母を使うのがこだわりで、山口県では長門峡が、唯一泡あり酵母なのだとか。そのほうが、旨味や味が出るという。仕込み室には、4000リッターの開放タンクが17本。大吟醸は小さなサーマルタンクで仕込む。「これで終わりです。見るところないですよね〜」と、岡崎専務が恐縮するほど小さな蔵である。

しかし、長門峡は全国の鑑評会で、平成19、20、21年の3年連続金賞をとっているのだ。全国で連続して金賞を取るのは、とてつもなく難しいと聞く。しかも純米吟醸は、山口県で一等をとっているという。なかなか実力のある蔵なのだ。

5*.jpg6*.jpg7*.jpg8*.jpg

では、そのお酒を飲ませてもらおう。「純米酒」は、やや酸があり、旨味もりつつ後味はスッキリだ。「純米吟醸」は、味に幅があり、甘みも感じる。「純米大吟醸」は、香りが華やかで旨い。山口県の酒米「西都の雫」で醸した純米吟醸「福良雀」は、すごく酸があり、個性的。そして金賞受賞酒の「大吟醸」は、バランス良く、間違いなくウマい。

また、長門峡は、昭和61年に全国で初めて、日本酒リキュールを造った蔵でもある。今でこそ日本酒で梅酒を漬けるのが流行っているが、じつは長門峡が元祖だったのだ。梅酒は時期的になかったのだが、柚子酒とだいだい酒があった。このあたりは、日本で唯一野生の柚子の木がある地域であり、だいだいは萩の名産だということだった。ちなみにだいだいは、東京でいう夏みかんのことである。

飲んでみると、「柚子リキュール」は甘すぎず、サッパリしていて飲みやすい。だいだいリキュールの「白小花」は、夏みかん特有のちょっとした苦みがアクセントになっている。どちらも上品な味わいで、ベタベタした甘さはないから、辛党の私でもイケる酒に仕上がっている。

「お口直しに」と、岡崎専務のお母さんが、本醸造の「手造り原酒」を持ってきてくれた。原酒なので、18〜19度あるのだが、アルコールっぽさは感じられず、甘みと旨味があり飲み応えたっぷり。これは旨い!

「うちの酒は旨味重視で、味に幅があって、とくに秋から旨味が乗ってくるような酒を目指しています」と岡崎専務。たしかに長門峡は旨口な酒なのだが、後味はスッキリしているので重たくはない。食事と合わせても飲みやすいし、酒だけで飲んでもしっかり旨い良酒である。だが製造量が少ない上に、9割は地元で消費されてしまうので、なかなか飲めない幻の酒だ。萩へ出かけたら、ぜひ探して飲んでいただきたい。私もいつかこの酒を、長門峡の紅葉を見ながら、飲んでみたいものである。


外観*.jpg有限会社岡崎酒造場
創業大正13年 年間製造量600石
山口県萩市川上464-1
TEL0838-54-2023
http://www.e-hagi.jp/~chomonkyo/





1だいにんぐまめた 山口県萩市椿東萩ロイヤルインテリジェントホテル内 TEL0838-21-4689
2甑
3もと場
4米洗い
5麹室
6麹の手入れ
7長門峡のお酒
8岡崎考浩専務とともに

▲ ページトップへ

オヤジ飲みツアー

飲み比べシリーズ

世界の酒を飲みつくせ!

酔いどれエッセイ