酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/明石酒類醸造株式会社 -

明石酒類醸造

明石酒類醸造の社長、米澤仁雄さんにお会いしたのは、数年前の試飲会の時。「玄米酒」という変わったお酒を出品されていて、それがけっこうおいしかったものだから、びっくりした。その後、「こんなお酒造りました」と私に送ってくれたのは、低アルコールの日本酒にバラの花びらを浸けた「バラのお酒」。これも意外においしくて、「変わったお酒を次々に造る蔵なんだなあ」と印象に残っていた。

兵庫の明石駅に現れた米澤さんは、ポロシャツにユニクロのフリースというラフな格好。リュックを背負って、夕暮れ時の改札にボーっと立っていた私は、「なんだよ、家出少女みたいじゃん!」と開口一番笑われてしまった。
 まず、系列会社の明石醗酵食品の事務所へ。こちらでは、蛸茶漬けや蛸しゃぶ、鯛の味噌漬けなど、地元明石の蛸や鯛を使った加工食品を扱っている。見慣れたバラのお酒、「プリンセス・オブ・ローズ」も飾ってあった。こちらは、結婚式の引き出物として売り出し中で、ほかにもおしゃれな瓶に入ったお酒や、小さい菰樽などの商品が、「エレガンテ」という結婚式用のシリーズとして飾ってあった。

「へ~、いろいろ考えているんだなあ」とひとしきり感心したが、米澤社長のすごさはまだまだこれからだ。「純和風調味料シリーズ」と銘打って、「趣」という超高級調味料を造っているというのだ。もともと「白梅」というみりんを造っていたメーカーではあったが、それをさらに進化させて、「熟成本みりん」、「純米調理酒」、「めんつゆ」、そして「だし」を完成させた。すべて混ぜものなしのしっかり熟成した本物なので、300ミリリットル700円近くする高級調味料。だが、家庭で簡単に本格料亭の味が出せるということで、グルメ主婦や料理好きのOLなどの間で、密かなブームになっているらしい。

さらに、棚に並んでいた商品に、すごいものを発見してしまった。焼酎なのだが、ただの焼酎じゃない。「長いも焼酎」「ごぼう焼酎」「にんにく焼酎」「玉ねぎ焼酎」「らっきょう焼酎」……。
「な、なんなんですか、これは!!」

「いやこれはね、はじめ京都の漬物屋さんが、蕪の漬け物の余ったところをどうにかできないかって持ち込んできたのが始まりなんですよ。それで『聖護院かぶら焼酎』というのをつくったら、意外と好評で。まあ、詳しい話はまたのちほど……」

ということで、近くの料亭「明石屋」へ席を移して飲みながらお話を伺うことになった。

会社に戻って営業マンとして大活躍


明石酒類醸造は、もともと甲類焼酎を中心とした会社だった。別の仕事をしていた米澤社長が会社に戻ってきたのは15年前のこと。メジャーな存在ではなかった「明石鯛」という日本酒ブランドをてこ入れして、吟醸酒を作り始めたのがこの頃だった。1年目は製造を担当してずっと蔵の中にいたが、2年目から営業を担当した米澤社長は、快進撃を始める。

まず、ダイエーに甲類焼酎の「がんばるマン」を売り込んだところ、これが大ヒット。大きなペットボトルに入ったこの焼酎を、目にしたことのある人も多いだろう。次に「まけへんで」という商品を開発。これをマルエツに売り込んだところ、こちらも思惑通りヒットした。

次に米澤社長が目をつけたのは、日本酒だった。一般の人に「どんな日本酒が飲みたいですか?」というアンケートをとってみたら、一番多かったのが「混ぜもののない日本酒」という答えだったそうだ。そこで「米だけの酒」という日本酒を売り出したところ、これもみごと大ヒット。

「すごいですね! 打率10割じゃないですか。で、今何が一番売れているんですか?」
すると、米澤社長は声をひそめて言った。
「じつはね、合成清酒なんですよ。うちは合成清酒も造ってるの。『一匹狼』という殺伐としたデザインのパック酒なんだけどね。これが売れるのよ~。明石で利き酒会があったとき、うちの合成酒を出したら、吟醸酒と間違える人がいたもんね。それだけよくできてるってことですよ」

「へえ~、私、合成酒って飲んだことないので、ぜひ飲んでみたいですね」
「じゃ、明日用意するから飲んでみて。けっこうおいしいから。ところでその純米酒はどう?」

米澤社長は「明石鯛」の純米酒をこのお店に持ち込んでいた。
「そうですね。独特な酸がありますから、今食べてるラ・フランスのシャーベットととっても相性いいです」

ほかにも野菜焼酎を数種類持ってきていたので、飲ませてもらう。「らっきょう焼酎」は、漬け物にしたときのらっきょうの味がする。「玉ねぎ焼酎」は、炒めた玉ねぎのような甘みが少し感じられる。「にんにく焼酎」はにんにくそのままという感じで元気になれそう。どれも素材の味がしっかり出ていて、とくに「にんにく焼酎」は、にんにくを使う料理、たとえば焼き肉とか中華なんかに合いそうだと思った。しかし、なぜこんな変わったものばかり造るんだろう。

「100人のうち99人がダメと言っても、1人がいいと言えばいい。だってお酒は嗜好品だもの。万人受けするお酒を造れば会社は大きくなるけど、それは造るつもりない。個性のある酒を造っていきたいですね」
米澤社長はキッパリそう答えた。

楽しみながら、個性的なお酒を造る


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翌日、私は米澤社長と蔵へ向かった。そこは、蔵というより工場といったほうがぴったりくる建物だった。明石酒類醸造は、焼酎と清酒合わせて年間10000石を製造し、うち清酒は2500石ほどだ。清酒は但馬杜氏率いる5人と社員1人の6人、焼酎は2人、そして合成酒は1人でそれぞれ製造を担当しているという。

清酒工場へ行くと、一階にある甑から湯気が上がっていた。蒸し上がった米をシャベルで掘り出し、クレーンで二階の仕込み室へ上げる。そして、手で広げて自然放冷。吟醸、大吟醸は、すべて放冷機を通さず自然放冷なのだ。

三階にある麹室も見せてもらった。昔の麹室は阪神大震災のとき壊れてしまったので、今あるのは大慌てで当時造ったもの。なので、ベニヤ張りの安普請でちょっと見かけは悪いが、中では麹蓋が積まれ、床(とこ)でも麹が布団にくるまっていた。見たところ、どこにも麹の機械はなく、すべて手造りなのがわかる。

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純米大吟醸の仲仕込みが始まった。仕込み室にあるタンクはどれも中くらいの大きさで、大仕込みはしていないようだ。仕事を見てみると、手造りで丁寧に造られていることがわかる。

ちょっと気になったのは、槽場(ふなば)を見に行ったとき。お酒を搾るヤブタがひとつしかないので、
「2500石でヤブタひとつだと、搾りがギリギリ重なってしまったとき、ちょっと困りますよね」
と言うと、
「いや、大丈夫。うちはこれでみりんも搾ってるから。中のパネルを変えればみりんも搾れるんだよ」
ホントに大丈夫なのかなあ? まあ、細かいことは気にせず、おおらかに造っている、ということだろうか。

次に、焼酎工場のほうを見に行った。あいにく蒸留はやっておらず、なにやら若い男性が2人、薄暗い工場の片隅で玉ねぎの皮をせっせと剥いていた。彼らの前には皮付きの玉ねぎが山積みになっている。米澤社長によると、900キロあるという。
「ひえ~、これ全部2人で皮剥くんですか?」
「そう、これも仕事。これで720ミリリットル3000本くらいできる。うちはロットが小さいから、いろんなものを造りやすいんですよ」

焼酎も手造りとは恐れ入った。

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その後事務所へ行き、ありとあらゆる酒を試飲させてもらった。とにかく野菜焼酎だけでもすごい数なのである。
「うり焼酎」は、ちょっと青臭い。「かぶ焼酎」は漬け物のかぶの味。「蕎麦焼酎」は辛くて蕎麦の味はしない。「長いも焼酎」も辛かった。「かぼちゃ焼酎」は香ばしさがある。「ごぼう焼酎」はごぼうの土臭い感じが出ていた。「だいこん焼酎」は大根おろしのような匂いと辛さがあり、絶妙。「ねぎ焼酎」は青臭いネギ味だが、香りがないのが残念。

減圧蒸留の「麦焼酎」は、やや香ばしく甘みもある。常圧蒸留の「米焼酎」は焦げたような苦みが気になった。

バラのお酒、「プリンセス・オブ・ローズ」はバラのいい香りがして色もきれいだし甘くておいしい。「発芽玄米酒」はお酢みたいに酸っぱかったが、「玄米酒」はワインのような爽やかな酸味があり、ちょっと香ばしくておいしかった。

「大吟醸」は辛口でスッキリ、香りもいい。「純米大吟醸」は独特な酸が個性的だが、スッキリしている。「山田錦の精米80%」は意外とスッキリしていて飲みやすい。「普通酒」と「下撰」は、けっこうバランスがよく飲みやすい。「二増酒」はちょっと甘すぎる感じ。そして「合成清酒」は、やや物足りない感じもするが、変なクセがなく、バランスが良くてなかなかおいしい。

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言っておくが、「明石鯛」の大吟醸は、平成8年と12年の全国新酒鑑評会で金賞をとっている。2006年には「純米大吟醸」が海外のITQIという賞で三ツ星の栄誉にも輝いている。でも、正直言って、大吟醸は普通においしいけれど、特別感動はなかった。

私が感心したのは、むしろ普通酒だ。それと、合成清酒。これらが、かなりのハイレベルなのは間違いない。笹木さんという合成清酒担当の方にお話を伺うと、おいしいと言われている清酒を分析して作ったレシピが昔からあり、それにのっとって、今もコツコツと一人でつくっているという。
「でも、お燗にしたらダメなんです。味がバラバラにばらけちゃう。結局は、カクテルですから。うちのレシピですか? さー、今となっては、誰がいつ作ったか、さっぱりわかりませんね」
そう言って、笹木さんは笑った。この力の抜け具合がいい。

また、発芽玄米の酒や野菜焼酎など、ある意味「キワモノ」的なお酒をいっぱい造っているところも評価したい。

「思いつきでなんでも造っちゃうんだよね。で、しばらくして社員に『この酒をどうするんですか?』なんて言われて、『あーっ、売るの忘れた!』って(笑)」

tsuku03_img06.jpgこんな米澤社長の、楽しんでお酒を造っている姿勢は、きっと飲み手にも伝わると思う。最近は海外の賞取りレースにも参加したりして、名醸蔵を目指しているようだが、米澤社長には、自由な発想で面白い酒をどんどん造ってほしいものである。


tsuku03_img07.jpg明石酒類醸造株式会社
年間製造量10000石
兵庫県明石市船上町9-48
TEL 078-923-2727
http://www.akashi-tai.com/


1 湯気を上げる甑
2 スコップでの蒸し取り
3 自然放冷
4 純米大吟醸の仕込み
5 麹米の引き込み
6 吟醸酒の麹は麹蓋でつくる
7 玉ねぎ焼酎のために玉ねぎの皮を剥く
8 単式蒸留機。これですべての焼酎を造る
9 明石種類醸造のお酒たち
10 野菜焼酎。このほかにもまだたくさんある
11 こんなに試飲させてもらいました!
12 明石の市場には新鮮な魚がいっぱい
13 明石名物の鯛
14 明石焼き。地元では卵焼きという
15 米澤仁雄社長とともに

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