酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/桐野

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「芋焼酎の『桐野』がすごいことになっているらしい」という噂を聞き、さっそく鹿児島へ飛んだ。なんでも、注文してから2年待ちだとか。どれだけすごい焼酎なのだろうか。

「桐野」は指宿の中俣合名会社が造っている。幕末の薩摩武士で、西郷隆盛と行動を共にした桐野利秋からとった名だというが、それ以外は謎だ。朝6時からの仕込み作業を、社長で杜氏の大山隆樹さんに見せてもらった。

かめつぼ仕込み、かめ貯蔵

小さな三角棚には、300キロの麹が入っていた。「大量生産するつもりはありません。これが一番良い量だと思います」と大山さん。なんと麹米は酒米の王者、山田錦だ。「芋が衣装なら、麹は人格みたいなものです。どんな衣装を着ても、人格は変わらないでしょう。山田錦は『桐野』の人格を形成し、ふくよかな味わいにしてくれるのです」

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一次仕込みはかめつぼを使う。中俣合名会社は明治37年の創業。その当時から同じかめを使っているので、かめには100年以上の年季が入っている。今でこそかめの周りはコンクリートで固められているが、大山さんが子供の頃は、土間だったという。

仕込み室には14個のかめが並んでいた。そのうちの2個にはすでに水が張られ、酵母が投入されている。そこへさきほどの麹を手作業で加えていく。こうしてできた一次もろみは、温度管理をしながら6日かけて発酵させる。

麹を出した三角棚は、毎回分解して隅々まで洗剤で洗う。もちろん、食品に使っても害のない洗剤だ。週に一度は消毒もする。棚に敷いていた布も、新しいものと交換。こうして徹底的に雑菌を排除している。

米は回転ドラムで蒸して種付けまでする。大山さんのほかに、2人の蔵子がいるが、どちらか一人は交代で泊まり込み、夜も蒸し米の手入れをするという。日によって、湿度や気温が違うため、米の状態も違ってくるからだ。蒸しがうまくいかないと、麹もいいものができないので、ここは一番神経使うところだという。

芋は黄金千貫。毎日1500キロの芋を従業員総出でトリミングする。日本酒で米を削ることを「磨く」というが、大山さんは、芋をトリミングすることも「磨く」という。「うちは、少しでも悪い部分はカットして、徹底的に芋を磨きます。カットしたところからまた傷んでくるので、磨いた芋は即座に蒸します。もし変な芋が入ってきたら、全部農家に返品しています」

蒸した芋を粉砕して、一次もろみに投入する作業が始まった。延々と30分以上、3人がかりで櫂入れをする。とてつもない重労働で、見ていて辛くなる。毎日体力のいる作業が続くので、芋焼酎の仕込み時期は、体重が5キロくらい減るとか。芋の仕込みが終わると、粉砕器や使った櫂棒をきれいに洗浄。これも大事な作業だ。

蒸留器は1基。「桐野」を含め、すべて常圧蒸留だ。最大930石まで造れる能力はあるが、「それをやると大変なので、800石くらいにおさえています」という。蒸留後は、いったんタンクに貯蔵したあと、1年以上かめ貯蔵する。タンクは水をかけて冷やし、かめは冷房のきいた部屋に設置してある。

仕込み作業を見たところ、細部にまでこだわって、丁寧に造っている様子。さすが「桐野」の蔵である。

麹米はほぼ国産


蔵の立地は恵まれていて、表は幹線道路に面しており、裏はJRの宮ヶ浜駅に隣接している。そのため、蔵には観光客が立ち寄れる試飲販売所が設けられている。そこで試飲をしながら、大山さんのお話を伺った。

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まず「桐野」からいただこう。甘く華やかな香り、ふくよかな旨みがあり、軽い味わい。なるほど、こういう酒だったのか。飲みやすいが、きちんと芋らしさがあり旨い!

次は「濱崎太平次」。この人は大山さんの祖先にあたり、江戸時代の豪商として地元では有名だ。銅像も建っているらしい。こちらは黒麹で仕込み、割り水に開平鉱泉を使用。軽い味わいながらコクがある。

「なかまた28度」は、麹米に鹿児島県産ヒノヒカリを使用し、黒麹で仕込んだ。これはとても甘い焼酎で、芋らしい濃さがある。一方、「天魔の雫」は「なかまた」とは正反対の酒質。麹米はヒノヒカリを中心に、三種をブレンド。スッキリ系でスイスイ飲める、ちょっと危険な酒だ。

最後に飲んだのが、かめつぼ貯蔵の「なかまた」。これは甘い「なかまた」がさらに甘く、まろやかでものすごく旨かった。

「うちのこだわりは、麹米がほぼ国内産だということ。一部タイ米も使っていますが、それも今、田んぼで国産の長粒米を研究しているところです。長粒米は、地元で好まれる昔ながらの芋焼酎ができるので、使わないわけにはいかない。これが国産になれば、うちの焼酎は100%国産米となります」

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実際、事故米事件の時は、「もっとも安全な焼酎」として取材が殺到、NHKテレビでも取り上げられたそうである。

「芋焼酎はワインのように原材料の差が出やすい酒です。だから麹米にこだわり、芋の磨きにもこだわるのです。また、麹造りもそうですが、機械仕掛けの回転ドラムで麹を造る方法では、80%くらいの出来にしかならない。だから手造りを貫いています。いわば、工業製品と工芸品の違いでしょうか。私たちは工芸品の焼酎を目指しています」

折から、桐野利秋を主人公にした映画が、来年公開されることになったという。「うちはまったく知らず、『桐野』を造ったあとに決まった話なのです。まさかこんなことになるとは……」と大山さんはやや困惑しつつ、嬉しそう。

しかしそうなったらますます「桐野」は品薄になるのではないか。「いえ、ほかの商品を削ってでも『桐野』は増産しようと思っています。それでも限界はありますけどね」

「桐野」の人気はまだまだ続きそうである。

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中俣合名会社
創業明治37年 年間製造量800石
鹿児島県指宿市西方4670
TEL 0993-27-9181
http://www5.ocn.ne.jp/~nakamata/





1三角棚での麹造り
2かめつぼが並ぶ一次仕込み室
3一次仕込み
4回転ドラム
5麹を三角棚に移す
6二次仕込み室
7二次仕込み
8芋切り作業
9蒸留器
10かめ貯蔵室
11左から2番目が「桐野」
12大山隆樹社長とともに


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