酔っぱライタードットコム - 酔いどれエッセイ/〆張鶴

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酒にはそれぞれ思い出があり、ストーリーがある。とはいっても、酔っぱライター的には、小説になるような美しいお話ばかりではない。酔っぱらって怪我をしたり、記憶をなくしたり、死にかけたり。かと思うと、飲む相手を間違えてからまれたり、たかられたり。そんな抱腹絶倒・悲喜こもごものショートエッセイ集。

〆張鶴


公式ホームページ「酔っぱライタードットコム」の中に、「おやじ飲みツアー」というコーナーがある。オヤジの、オヤジによる、オヤジのための飲み屋に、毎月突撃取材するというものだ。じつはこれ、私一人で取材に行っているのではない。ちゃんと本物のオヤジにガイドしてもらっているのである。

そのオヤジの正体は、Fさん60代。オヤジの聖地新橋を中心に、オヤジの店を知り尽くした団塊世代だ。仕事は某民放テレビ局の元アナウンサー。しかし華やかさはなく、どちらかというとマジメな風貌。ややサイズの合っていないつるしの背広に身を固め、ハイライトを吸いながら、焼酎のお茶割りを飲んで、スナックでカラオケを歌う。その歌が異様にうまい。

このFさんとひょんなことから飲み友達になってしまい、毎月のように飲みに行くようになってもう数年経つ。Fさんの行きつけの店は、さすがに昭和の香りがただよう味のある店が多い。先日、二人で「取材」と称して行った店もそうだ。

場所は新橋の烏森口。70代の大将が一人でやっているうなぎ屋だ。うなぎといってもうな丼が出てくるわけではない。うなぎの蒲焼きや、キモやレバーといった珍味が串焼きになって出てくる。酒は30年前の開店当初から新潟の「〆張鶴」一本やりだ。1月から2月にかけては、そのにごり酒が飲める。〆張鶴のにごりは、辛口で口当たりよく、スイスイ飲めてしまう。酒とつまみを堪能したあとは、Fさんと顔を見合わせて
「さて、歌ですか?」

あ〜、今日もまた午前様だな…と思いつつ、楽しいから断れない。二人の「取材」はまだまだ続きそうである。







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