酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/瑞冠


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福山からローカル線で40分、府中市は静かな町だった。ここで夜、瑞冠の蔵元、山岡克巳社長と待ち合わせて、「かがわ」というお店へ。元気の良い女将が名物の割烹居酒屋である。

お店には山岡社長の奥様(美人!)と、地元酒販店の高井社長が待っていた。ここでシャコの酢の物やメバルの煮付けなどをつまみに、飲むのはもちろん瑞冠。まず純米の発泡にごり生酒で乾杯! シュワッと爽やかで、甘くない濁り酒だ。

雄町の純米吟醸は、日本酒度プラス8なのだが、辛すぎる感じはなく、むしろ口当たりはやわらかい。骨太さとふくらみがありつつ、後味はスッキリという筋の良い酒だ。

私が一番気に入ったのは、山田錦の山廃。コクがあり、しっかりしていて飲み応えがある。旨い! 亀の尾の山廃はそれよりやや辛口か。山田錦の生もともコクとキレのバランスが素晴らしい。これらをお燗にすると、ますます骨格がしっかりと際だち、まろやかになって旨い。なんだか瑞冠、めちゃくちゃ良い酒だぞ。

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「広島と言っても山側なので、瀬戸内に面した酒とは違います。うちは辛口。でも、しっかりと味があって、お燗してもくずれず、むしろ燗上がりする酒を目指しています」

山あいの田んぼに囲まれた小さな蔵

翌日、府中からさらにローカル線に乗って清流をさかのぼり、山を登って1時間。甲奴という駅に着いた。ここから車で5分走ると瑞冠の蔵である。標高360メートル、少し肌寒い。

昭和12年に建てられた蔵の中では、小さな甑から米を掘り出し、自然放冷をしていた。麹米はすべて自然放冷だという。仕込みは小さく900キロから1200キロ。吟醸は300キロから600キロのタンクで仕込む。すべて開放タンクだ。

搾りはヤブタもあるが、袋を吊り下げて雫を取る袋搾りを10種類以上の酒で行っている。貯蔵にも気を配り、火入れは12度以下、生酒は2〜3度の冷蔵庫で貯蔵。山廃や生もとは1〜2年寝かしてから出荷する。

敷地内には精米所もあった。全量自家精米。旧式の手動精米機ではあるが、小ロットの米を自分なりに精米するには、自家精米しかないという。米にはこだわり、全量広島県産のうち、80%以上が農家との直接契約栽培米だ。

「山田錦の田んぼがあるので、見に行きますか?」と言われ、車に乗って1時間。その途中、山の中で湧き水が出ている井戸があった。「ここがうちの水源です。毎日ここに仕込み水を汲みに来ているのです」

飲んでみると、少しミネラルを感じる中硬水である。なるほど、広島は軟水仕込みの甘口酒が多いと言うが、瑞冠は水からして違うのだ。

田んぼに着くと、山田錦は少し倒れ気味になっていて、刈り取りを待っていた。米の原種に近い山田錦は背が高いので、どうしても穂先から倒れてくるのだそうだ。

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この田んぼの農家さんは、山田錦しかつくらない変わり者で、米づくりの前は酒づくりをしていたとか。だから酒米のことがよくわかっていて、素晴らしい山田錦をつくってくれると山岡社長は太鼓判を押していた。

「うちは蔵が小さくて田舎にある。良い水、良い気候、そして素晴らしい田んぼと米とお百姓さん。住むにはもちろん不便な場所ですが、酒づくりには最高の土地だと自負しています」

まさかこんなにおいしい酒が、こんなところにあるとは思わなかった。もう少し知名度が上がれば、ブレイクする酒ではないか。

「いえ、ブレイクなんてとんでもない! 杜氏以下蔵人3人で、あの通り小さな蔵ですからそんなにつくれませんよ」

と、山岡社長はあくまでも及び腰。でもこんな旨い酒が、人知れず地元だけで飲まれているのはもったいない。「また瑞冠を飲めるのはいつになるだろう?」と思いつつ、山里をあとにしたのであった。

外観*.jpg山岡酒造株式会社
創業明治末期 年間製造量400石
広島県三次市甲奴町西野489-1
TEL0847-67-2302
http://www.fuchu.or.jp/~zuikan/





1お食事処かがわ 広島県府中市元町444-7 TEL0847-46-3353
2メバルの煮付け(かがわにて)
3湯気を上げる甑
4蒸し取り
5自然放冷
6麹室へ米の引き込み
7瑞冠のお酒
8山岡克巳社長とともに

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