酔っぱライタードットコム - 酔いどれエッセイ/モヒート

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酒にはそれぞれ思い出があり、ストーリーがある。とはいっても、酔っぱライター的には、小説になるような美しいお話ばかりではない。酔っぱらって怪我をしたり、記憶をなくしたり、死にかけたり。かと思うと、飲む相手を間違えてからまれたり、たかられたり。そんな抱腹絶倒・悲喜こもごものショートエッセイ集。

 

モヒート 

 ラテン狂いのKちゃんと、ラテンな店へ遊びに行った。Kちゃんはこの店の常連だ。スペイン語はペラペラで、サルサやメレンゲも踊る。一方私は踊れないばっかりに、南米でサルサに合わせて盆おどりを踊ってしまった暗い過去がある。
 フロアでは、男女がペアになってグイグイとサルサを踊っていた。ああ、このリズムにのれなかったんだ、あたしは。Kちゃんは、と見ると、サルサを聞くなりもう腰が動き出し、さっと常連の男性をゲットしたかと思うと、踊りに行ってしまった。なんだか場違いなところに来ちゃったなーと、ひとりモヒートを飲む。ラムをソーダで割り、ミントの葉をいっぱい入れてライムを絞ったキューバの国民酒。たくさん飲むとウルトラハイな自暴自棄に陥り、ワッハッハッもうどうにでもなれ!と自爆する類の酒だ。
「マユミちゃんも踊りなよ! 彼はリードがうまいわよ」とKちゃん。彼女と踊った男性は、独学でサルサをマスターしたという。「サルサのビデオを見ながら、自宅の回転椅子を相手に練習したんだ。こうやって…」と、彼はそばにあった回転椅子をクルクルと回し、椅子とサルサを踊るという信じられない芸を披露した。これを見た私は我を忘れて思った。「椅子だって踊れるじゃん!」
 私は彼のリードでフロアに躍り出た。だが、すぐに自分が椅子ではなく人間だということに気づいた。どうしよう、また盆おどりを踊っちゃうよ! そのとき、体中のモヒートが逆流して言った。「ワッハッハッもうどうにでもなれ!」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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