酔っぱライタードットコム - おやじ飲みツアー/多吉 -

多吉

多吉

東京都港区新橋3-16-19
TEL 03-3431-4309


oyaji02_02.jpg

新橋烏森口のにぎやかな通り沿いに、一軒の鰻屋がある。鰻といっても鰻重が出てくるわけではない。串に刺した鰻を、焼き鳥のように食べさせる飲み屋である。

「多吉」という店名より、「〆張鶴」の看板のほうが目立つ入り口を入ると、中は10人も座ればいっぱいのカウンターだけの店。カウンターの中では御年77才の大将が鰻を焼いている。ここに店を構えて30年。鰻のタレも30年ものだ。

ひとりでゆっくりマイペースで仕事をする大将と、ほかのお客さんの動向を見はからいながら注文する。けっして焦ってはいけない。キンキンには冷えていない、体にやさしいビールを飲みながらゆっくりと待つ。鰻の焼ける香ばしい匂いがつまみだ。

oyaji02_03.jpg

30分ほどして出てきたのは白焼き。こいつをワサビ醤油で食べる。ふわふわとした身に脂がのっていて旨い。さらに30分ほどして、煮込みが出てきた。鰻のキモでダシをとった珍味。コクがあって旨い。

串焼きは330円から350円。驚くほど安い。私のおススメはヒレだ。背びれを長く切って、くるくると串に巻き付けて焼く。独特の食感と旨味。タレでも塩でもいける。 

セットは1550円で、キモ、レバー、ごぼうハサミ(塩)、たんざく(塩)、たんざく(タレ)、つくねの6種類が次々と出てくる。鰻にごぼうというのは、ドジョウにごぼうからヒントを得たこの店オリジナル。ごぼうの土臭さが鰻に良く合っている。卵の黄身をからめて食べるつくねも、食べ応えがあって旨い。

oyaji02_04.jpg

お酒はもちろん新潟の「〆張鶴」一本やり。東京に初めて「〆張鶴」を持ってきたのがここの大将だという。当然、蔵元の信頼は厚く、1月~2月の時期には珍しい「にごり」が飲める。これが思いのほかスイスイと飲みやすい。大将もカウンターの中でさりげなく「にごり」を飲みながら、「ヤクルトを飲む気分」と笑う。

焼酎派には、三重県の「キンミヤ焼酎」が用意されている。甲類焼酎だが優しい味。昭和35~40年頃、トリスの前にブレイクしていた酒だというから、当時を懐かしんで飲むお父さんたちも多い。

大将が特別に材料を見せてくれた。鰻の身やキモが、氷の上で冷やされていた。
「ウチは冷凍ものは使わないから、全部生。それをこうして冷やす。冷蔵庫に入れてもダメだし、もちろん冷凍してもいけない」
鮮度のいい生のキモも、30年間の信用で、市場から集められたものだ。
「売れても売れなくても毎日200匹分買う。その積み重ねでいいキモが入るんです」
と大将は言う。それらの仕込みのため、毎日3~4時間しか寝られない日々。
「同じようなことはできるかもしれないけど、まあ、他の人には真似できないやね」
後継者は?と聞くと、一言、
「教えるのがめんどうだよ」

ここまでこだわっていると、後継者も育たないのか。でも大将もかなりのご老体。いつまで続けられるのか……。
「体が続く限りやりますよ」

「〆張鶴」の「白いヤクルト」を飲みながら、大将はまた焼き台に向かうのだった。

▲ ページトップへ

オヤジ飲みツアー

飲み比べシリーズ

世界の酒を飲みつくせ!

酔いどれエッセイ