酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/樽平・住吉

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「樽平」は、私の大好きな酒。ガッチリと骨太でいながら辛口でスッキリしている。どこにも真似の出来ない、個性ある酒なのだ。樽平酒造を訪ねるのも、今回で3回目。米沢からローカル線で20分の羽前小松駅に降り立つと、井上京七社長が出迎えていてくれた。

「何もないところですが、最高の米沢牛を出す店があるので、すき焼きをしましょう」と連れられていったところは、1階が肉屋さんで、2階がレストランというお店、「味斎(あじさい)」であった。

1*.jpg神々しくもお出ましになったお肉は、まばゆく美しい霜降り。さっと焼いて口に入れると、肉汁とともに、じゅわ〜っと舌の上でとろける。う、うまい! 飲むのは純米生酒の「雪むかえ」と、純米大吟醸の「ゆとり都」。どちらも骨太なお酒で、とくに「ゆとり都」は酸があって食事に合う。しかも、濃い味付けの肉料理なのに、全然負けていないところは、さすが樽平の酒である。

農林水産大臣賞を受賞した「牛賜(ぎゅうたま)」なる珍味もいただいた。もち米のおにぎりに、牛もも肉を巻いて甘辛く煮込んだもの。もちもちの食感に柔らかいお肉が合わさって、なかなかの旨さ。こうしてこの夜はぞんぶんに米沢牛を堪能したのであった。

徹底して妥協のない酒造り

翌朝、蔵へ着くと、蒸気の上がる甑に米を張り込んでいた。普通は米を張り込んでから蒸気を入れるのでは?と思ったが、これが「抜け掛け法」という昔ながらのやり方で、均等な蒸し米ができるのだという。
 甑は、今ではまず博物館でしか目にしない吉野杉の甑。これだけ大きな甑の箍(たが)をはめる職人は、現在見つからないそうで、あちこち修復しながら大事に使っている。

ちなみに樽平酒造では、浸漬タンクも吉野杉で、暖気樽も吉野杉。中には墨で「文化三年」と書いてある200年前の桶まである。数年前までエアシューターもなく、まさに明治時代のままの手造りを貫いていた。そのため、「篤姫」でも有名な宮尾登美子原作のNHKドラマ、「蔵」のロケ地ににもなったのだ。

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奥の酛場(もとば)へ行くと、暖気を入れたあとであった。木の暖気樽は、ステンレスのものと違ってじわじわと暖まり、10時間ももつという。もとは速醸だが、生もとや山廃の味を出すため、約3週間かけてたてる独特の造り。こうして純粋で発酵力の強い酵母に仕上げるのだ。また、泡面を見て発酵度合いを判断するため、泡あり酵母にしている。

米が蒸し上がるとかついで運び、広げて冷ます。麹米と酒母米は放冷機を通さず、すべて自然放冷だ。麹室に引き込んで、種付け。あとは全量麹蓋で麹を造る。出来上がった麹を見せてもらったら、真っ白な総ハゼだった。樽平の酒は、淡麗の真逆に位置する旨口。なので、こうして米の旨味を出す、力強い麹を造るのだ。

搾りはほぼフネで行い、炭濾過は一切せず、タンクで熟成させる。こうすることで、秋以降、ぐっと味が乗ってくるのだという。そしてビン詰め前に甲付樽に入れて1週間寝かせる。

では、その味をみてみよう。まず、純米大吟醸から。「住吉」は、酸があってスッキリ辛口。「樽平」はコクと旨味がありつつやっぱり辛口だ。樽熟成していない「雪むかえ」は、バランスが良く飲みやすい。

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次は特別純米で、これはいろいろ種類がある。「樽平 金」は木の香りと熟成感がたっぷり。「住吉 金」は酸がしっかりあってお燗によさそう。「住吉 超辛口」はスパッと切れるような辛口。「住吉 銀」は骨太さの中に旨味がたっぷり。「樽平 銀」はスッキリしていて飲みやすい。

私の好きな粕取り焼酎も飲んでみた。「樽平10年熟成25度」は、粕の香りに香ばしさが加わり、ほんのりと甘みがある。「樽平10年熟成40度」は、ガツンと来るヘビーな香りと味わいで、モルトウイスキーのようだ。

井上社長に「酒造りで一番何が大切ですか?」と聞いたところ、「すべての工程で手は抜けないけれど、一番は米でしょう。原料が悪ければ、どうしようもないですからね」という答えだった。だから樽平では、山田錦以外は100%蔵人さんが造った特別栽培米(減農薬・減化学肥料米)を使用。田んぼのうちから目を光らせ、1等米しか買い取らないから、自然と良い米が手にはいるという。蔵人さんも、自分の作った米で酒造りをするので、おのずと力も入るというものだ。もちろん、全量自家精米である。

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蔵の中にやたらと人が多かったので聞いてみると、16人で造っているという。なんとも贅沢だが、どの工程にも人の手がかかっており、とくに全量麹蓋での麹造りを続けているので当然だろう。

時代はめまぐるしく変わり、はやりの酒は移ろっても、頑として「我が味」を貫く樽平。いつまでも変わらず、妥協のない酒造りを続けてほしいものである。
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樽平酒造株式会社
創業1695年頃
山形県東置賜郡川西町中小松2886
TEL0238-42-3101
http://www.taruhei.co.jp




1肉の斎藤・お食事処味斎 山形県置賜郡川西町大字上小松1792
 TEL0238-46-2257
2抜け掛け法で米を張り込む
3湯気を上げる甑
4蒸し取り
5自然放冷
6麹の種付け
7仕込み室での櫂入れ
8搾りはフネで
9手作業での米洗い
10樽平のお酒
12井上京七社長とともに

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