酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/清開・日光誉

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渡辺佐平商店は、栃木県の今市にある小さな酒蔵だ。観光地日光に近いこともあり、見学者が年間1万人訪れる。数年前に訪れたときは、観光客向けの酒蔵ツアーを体験し、お酒にまつわることわざや漢字を学んだり、杜氏さんが歌う酒屋唄を聞いたりと、楽しい時間を過ごさせてもらった。

現在は、専務の渡邊康浩さんが酒蔵ツアーを担当しており、得意の英語力を生かして、外国人観光客の案内もしているという。外国人の間では、英語でガイドしてくれる貴重な蔵として人気になっており、今では見学者の1割を外国人が占めるほどだ。

取材前日、渡邊専務と蔵近くの「コスモス」というお店へ。ここで今年の新酒をいただいた。ひとつは「純米生原酒 しぼりたて」。原酒なので、アルコール度が18%以上ある。とにかくコクがあり濃い。旨味と甘みがあり、充実感のある酒だ。もうひとつは、「特別純米 活性にごり」。日本酒度がマイナス4なのだが、甘く感じない。甘すぎず辛すぎず、キレもよく飲みやすい。

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このお店は洋食屋さんなので、つまみは「牛のたたき」や「牡蠣のグラタン」など。日本酒を飲むには、はちょっと意外な組み合わせだが、しっかりとしたお酒なので、つまみに全然負けていない。

「うちの酒は純米酒が主で、味がある。そして食中酒を目指して造っていますから、かえってこういった洋食に合うのかもしれません」と渡邊専務。そのうち純米酒のお燗が出てきた。これがうっすらと黄色いのにまったく雑味がない。「うちは炭濾過をしていないので黄色いのです。でもまったくヒネてないでしょう?」

ふむふむ、たしかにヒネていない。しかも味があって旨い。「けっこう私の好きな酒です」と言うと、「うちの酒が好きな人は、酒好きな人が多いんですよね。江口さんも酒飲みですね〜」と言われてしまった。料理も田舎の洋食屋とは思えないほどおいしく、スイスイと杯が空いてしまう。いやはや、旨い。

小さい造りで丁寧に

翌朝、仕込み作業を見学させてもらった。今市は水が良いことで知られる。蔵の入口には仕込み水の井戸があり、誰でも自由に汲むことができるようになっていた。やわらかい軟水で口当たり良く、近所の蕎麦屋さんなども、業務用に汲みに来るという。

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こちらでは、杜氏と渡邊専務含め、4人で年間400石を造っている。甑から蒸し米をクレーンでつり出し、放冷機にかけて麹の種切り。麹米と吟醸の掛け米はエアシューターを使わず、クレーンで運んでいる。吟醸の麹は麹蓋を使い、あとはハクヨーの三段式製麹機を使う。

仕込みタンクは18本。2トン仕込みなので大きくはない。吟醸、大吟醸は、それぞれ1300キロ、500キロで仕込む。ふな場で、ちょうど搾り終わった純米酒を飲ませてもらった。旨味とコクがばっちりありつつ、キレもあるきれいな酒だ。

蔵には試飲販売所も併設されていて、そこでさらに試飲させてもらった。地元産の五百万石を使った「日光譽 純米吟醸」は、比較的酸がありスッキリ。「純米大吟醸」は、大吟醸にしては香りが穏やかで、食中酒としてよさそう。珍しい赤米の酒「活性にごり生酒 朱」は、桃の節句に地元の約10軒の酒販店だけで販売する貴重なもの。甘酸っぱくて飲みやすく、春らしいピンク色もきれいだ。激ウマだったのが、「きざけ 日光譽 純米原酒」。しっかりとした味わいで飲み応えたっぷりの、のんべえ酒である。どの酒も個性がしっかりあり、酒らしさのある濃い味わいであった。

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ところで、外国人はこの中のどんな酒を買っていくのだろうか。「欧米人は、値段にこだわらず、純米大吟醸などをお買い上げになります。ワイン文化がベースにあるので、ワインのようにエイジングできるのかという質問がとても多いですね。アジア系の方々は、紹興酒のような熟成酒はないのかときかれる場合が多いです」

お酒は日本酒に限らずなんでも好きだし、英語力を生かせる酒蔵ツアーのガイドも楽しいという渡邊専務。もちろん、日本人観光客も楽しめるよう、日々話術を磨いているとか。10人から見学可能ということなので、日光観光のついでに、ぜひ立ち寄りたい蔵である。


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株式会社渡辺佐平商店
創業天保13年(1842年) 年間製造量400石
栃木県日光市今市450番地
TEL0288-21-0007
http://www.watanabesahei.co.jp




1サーモン刺身のわさび風味(コスモスにて)
2食酒空間コスモス 栃木県日光市今市768-1 TEL0288-22-6192
3蒸し取り
4麹の種付け
5麹室に引き込む
6櫂入れ
7清開のお酒
8渡邊康浩専務とともに

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