酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/銀河高原ビール

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地ビールが解禁になってすぐの1996年、酔っぱライターとして独立したばかりの私は、雑誌の仕事で全国の地ビール取材に飛び回っていた。もちろん、設立したての銀河高原ビールにも来たことがあった。あれから16年。工場に隣接する温泉ホテル「沢内銀河高原ホテル」は、外観に当時の面影が残っており、ビール工場はそのまま。なつかしさがこみあげてきた。

ホテルのレストランでは、銀河高原ビールの樽生が飲める。さっそく900円の飲み比べセットを飲んでみた。まず銀河高原ビールの看板商品ヴァイツェンから。フルーティーな香りでコクがあり、ちょっと重めなのが銀河高原らしさだ。ペールエールは苦みを極力抑えた味。モルトの甘みとコクがあり、ホップの香りも素晴らしい。

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最後に飲んだスタウトにはぶっ飛んだ。苦みと甘みのバランスがちょうど良く、コクがありながら酸味で調整していないキレの良さ!旨い!!聞けばスタウトは樽生しかつくっておらず、缶や瓶では発売していないとか。主にここのレストランでしか飲めない貴重なビールだ。いやはやありがたい。

3月に発売したばかりの季節限定白ビールも飲んでみた。ちょっと苦みがあるスパイシーなベルギー風ビールなのだが、スパイスやハーブはまったく入っていないという。いったいどうやってこの味をつくったのか。すごい技術である。

夕食は一応洋風なのだが、味付けがアッサリしすぎていて、銀河高原ビールのコッテリした味には負けてしまう気がした。とくに激ウマなスタウトに合う料理がなかったのが残念だ。

24時間フル稼働する工場

そんなことを思いながら夕食を食べていたら、ブルワーの柴田信一さんがレストランに来てくれた。柴田さんとはビールのイベントで会って以来、Facebookでもお友達になっている。

「今日は夜勤なので、今僕がビールを仕込んでいますよ。見に来ますか?」
と言ってくれたので、ホテルの隣の工場についていった。

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ビールをつくるブルワーは4人で、1人8時間ずつの3交代制。工場は24時間稼働しているという。創業当時からある釜は、普通の地ビール工場にある標準的なもので、3000リットルだ。たしかにこれでは24時間フル稼働しないと需要に追いつかないだろう。年間1800キロリットルを生産する銀河高原ビールは、クラフトビールの中では大手だからだ。
柴田さんは、ストップウオッチをいくつも見ながら、バタバタと工場を走り回り、いろいろな作業を同時進行でこなしていた。そして「少し時間ができたので」と、タンクから直接ビールを注いで味見させてくれた。

「いろいろ試作品もつくっていまして」と、出されたのは淡色系のビール。スッキリしていて飲みやすいが、銀河高原らしいコクもちゃんとある。もっとスッキリしているのがケルシュだった。やや酸味もありつつ、味わいは豊かである。うん、旨い!私の大好きなスタウトも飲ませてくれた。う〜ん、やっぱりタンク直接だとさらに旨い!ほんとにバランスいいな〜。

柴田さんは「最後にヴァイツェン飲んでいってください。これ、自信作なんです。こんなにいい出来になるのは、1年に1度あるかないかですね」と言って、グラスを渡してくれた。いや〜、これはもう絶品!香りは華やかで、酸味とコクと甘みのバランスが絶妙だ!

完全無濾過のビールを「磨く」

翌日は、朝から菅野清人工場長の案内で、工場の見学である。菅野工場長に、「昨日は柴田さんにタンクから注いでもらって、いろいろ試飲しましたよ。やっぱりタンクのビールはおいしいですね」と言うと、「うちのビールは完全無濾過で生詰めなので、品質管理が難しい。ビールはどうしても酸化や劣化をしますが、基本的にはタンクのビールと缶のビールを同じにしたいと、日々努力中です」とのことだった。

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まず麦芽の粉砕室へ。ドイツの麦芽を輸入しているが、鮮度が大事なので一度に大量にストックせず、保管は冷蔵庫だ。粉砕麦芽を使わず、粉砕は工場で行うのもこだわりの一つである。
釜はドイツ製。糖化釜、濾過釜、煮沸釜の3つでワンセットだ。毎回同じようにつくっても、原料の状態が違うので同じ品質にはならない。だから糖度を測りながら、一回ごとに配合を変えて仕込んでいる。

発酵室には6000リットルと3000リットルのタンクが並ぶ。発酵は1週間程度。その後1ヶ月かけて熟成させる。その熟成期間にタンクを2〜3回移動し、そのたびに澱を落としていく。銀河高原ビールでは、このことを「ビールを磨く」と言っている。これこそが、無濾過でコクがありながら、スッキリ飲めるビールづくりのポイントなのである。

最後にもう一度飲み比べをした。ヴァイツェンと小麦のビールは同じ製法だが、ヴァイツェンは生のまま、小麦のビールは熱処理をしている。ヴァイツェンは時間の経過と共に変化していくが、小麦のビールはちょうどいいところで発酵を止めているので、小麦のビールのほうがコクがある感じ。ヴァイツェンはややスッキリめだ。これは好みが分かれるところだが、私は小麦のビールのほうが好きである。

試作品の黒ビールも飲ませてもらった。ひとつは全然苦くなく、甘くもなく、まったりとした味わい。もうひとつはカラメル感のある濃いヴァイツェンという感じ。この2つの味の中間あたりを狙って、商品化の予定だという。

試作品のアルトは、華やかな香りに少し苦みがあって、コクのあるビール。これはすごくおいしい!かなり完成度が高いので、商品化も早いと見た。こうした試作品は、季節限定ビールとして3月と9月に発売するそうだ。楽しみである。

「見ての通り、工場はフル稼働で生産が追いつかない状態です。新商品を出すにしても、季節限定がやっと。でも手を抜かず、丁寧な仕事を心がけていくつもりです」と菅野工場長。

16年ぶりに訪れた銀河高原ビールは、確実においしく進化していた。岩手の山奥の小さな工場は、今日も24時間休みなく、全国の銀河高原ファンのもとへビールを届けているのである。

外観*.jpg株式会社銀河高原ビール
創業1996年 年間生産量1800キロリットル
岩手県和賀郡西和賀町沢内貝沢3-647-1
TEL0197-85-5321
http://www.gingakogenbeer.com/







1沢内銀河高原ホテル
2飲み比べセット
3麦芽
4仕込釜
5発酵室
6発酵タンク
7タンクから直接注ぐ
8試作品
9銀河高原ビール
10菅野清人工場長とともに

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