酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/手取川

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手取川の蔵元吉田酒造店は、手取川扇状地のほぼ中央・松任にあり、手取川の伏流水を仕込み水として、明治3年から酒を醸してきた。 

全国でも銘酒として名高いこの酒を取材したのは、約10年前のこと。さぞ敷居の高い蔵元かと思いきや、人との縁をとても大切にする社長で、その温かい人柄に感銘を受けたことを覚えている。

その後、新たな社長に変わられたと聞いて数年経ち、今回ようやく訪れる機会を得た。初対面の吉田隆一社長は、先代社長に勝るとも劣らず温かい方で、今でも私が書いた10年前の雑誌記事を、コピーして配付するなど、大切にしてくれているということだった。ありがたいことである。

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取材前日、吉田社長に連れられて行ったのは、「鈴おき」という加賀懐石のお店だった。このお店は、一晩に2組しか予約できない高級店なのだが、とても雰囲気が良く、温かいもてなしの心があふれている。「この店の気配りは、お客様に全然気を遣わせない。これが本当のもてなしの心だと思います」と吉田社長が絶賛するお店なのだ。

まずは、「あらばしり」で乾杯! 炭濾過していないので、うっすらと黄色いのが特徴だ。飲めばキリッと辛口で、スジの良さが際だっている。次は「大吟醸 名流」。穏やかな香りで、食中酒としてもイケる上品な味わいである。

「吉田蔵 純米大吟醸45」は、いくら飲んでも疲れず、インパクトありまろやか。重さや雑味なく、スッキリとしているのもいい。「山廃純米」は、2009年のインターナショナル・ワイン・チャレンジで、純米酒部門のゴールドメダルを受賞したという。スッキリとしながら旨口の酒で、お燗にすると、さらに旨みが増した。

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どの酒も、繊細な懐石料理を邪魔せず引き立てるいい酒ばかり。ついつい飲み過ぎた私は、最後にはすっかり記憶をなくしていたのであった。

造りから貯蔵まで手を抜かない

手取川では、能登杜氏の山本輝幸さんと、社員杜氏の吉田行成さんによる、二人杜氏制をとっている。主に造るのは山本杜氏で、行成さんはタンク4本分の「吉田蔵」シリーズを担当している。また、行成さんは、原価計算、製造計画、出荷前の調合なども行う。二人が切磋琢磨し、また協力し合うことで、さらなる酒質の向上をはかっているのだ。

蔵の中で、10年前と変わったところはというと、すぐに自動洗米機が目についた。限定吸水で、手洗いと遜色ない高性能の洗米機だ。これにより吸水が安定して糠がよく取れるようになったため、お酒の香りが良く出て、キレも良くなったという。

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造りも変わった。本醸造と純米酒の原料を、五百万石から石川県の酒米・石川門に変えたのだ。この米は外硬内軟で、麹米としては最適だという。また、カプロン酸の出る香り系の酵母を減らし、金沢酵母に切り変えた。金沢酵母は発酵力が強く、イソアミール系の香りなので香りの変質が少なく、料理との相性も良くなった。

造りだけではなく、火入れから壜詰め、貯蔵にも力を入れている。火入れ後プレートヒーターで急冷し、低温(5度)で熟成させることにより、独特のヒネ香がなくなり、酒の香りが良くなった。壜詰めにはパストライザーを導入し、精米55%以下の純米酒と吟醸酒の全量を、瓶火入れできるようになった。また、平成20年に低温倉庫を新築し、生酒はマイナス5度、火入れ酒はプラス4度で貯蔵。これにより、ほとんどの吟醸酒が1回瓶火入れとなり、より爽やかな吟醸香が楽しめるようになった。

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「こうした様々な改革により、香りがあって味の練れた酒を目指しています。新酒の時の爽やかな香りや、純米酒のお米の香りが生き生きとしており、かつ熟成したやわらかさやまろやかさのあるお酒が、究極のテーマですね」と吉田社長は言う。「十年ひと昔」というが、10年の間に、手取川はここまで進化していたのだ。

「去年までは、『奥ゆかしい香りの手取川』がテーマでした。ちょっと料理と引いたところで、気を遣っているのがわからないような。そう、昨日の『鈴おき』のもてなしのような酒です。今年は『なめらかな味の手取川』を目指して、香りと味の両立をさらにはかっていきたいですね」

10年の歳月をかけて進化した手取川は、今もその旨さに磨きをかけようとしている。現状の酒質に満足せず、常に上を目指す志の高さが、手取川を銘酒たらしめるバックボーンなのである。

外観*.jpg株式会社吉田酒造店
創業明治3年 年間製造量2800石
石川県白山市安吉町41
TEL076-276-3311
http://www.tedorigawa.com/





1鈴おき 石川県白山市橋爪町23番地 TEL076-274-2502
2香箱蟹(鈴おきにて)
3蒸し米をスコップで掘り出す
4吟醸の仕込みはサーマルタンクで
5自動洗米機
6麹室
7酒母室
8仕込み室
9櫂入れ
10壜詰めライン
11手取川のお酒
12吉田隆一社長(左)、山本輝幸杜氏(右)とともに

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